今回は「多層円筒ソレノイド」について解説してみたいと思います。
多層円筒ソレノイドとはソレノイドを何重にも巻いてできるもので、普通のソレノイドよりも計算が複雑になります。
とはいえ、すこし考え方を応用していくだけで理解できるのでしっかりやっていきましょう。
多層円筒ソレノイド
全巻き数\(N\)で、内半径\(a_1\),外半径\(a_2\)長さ\(l\)の多層円筒ソレノイドがあり、平等に導線がまかれています。
電流\(I\)が流れるとき、このソレノイドに発生する磁場を求めます。

方針
この問題を解く上での方針として
- \(z\)方向から生じる微小磁場を表す
- \(y\)方向から生じる微小磁場を表す
- \(z,y\)方向に積分して計算する
ということをしていきたいと思います。
電流が一本の場合を考えてみる
まず、電流が一本の場合を考え、そこから生じる磁場を計算します。

この電流の本数を横(動径方向)と縦(z方向)に増やしていけば(積分すれば)、多層円筒ソレノイドから生じる磁場も計算できるだろうというアイディアです。
上の図で電流が流れている円の半径を\(a\)とすると
さて、\(P(0,0,z)\)点に生じる磁場の\(z\)方向は
$$
dH_z = \frac{1}{4\pi}\frac{I a^2d\theta}{|a^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
となります。(ビオサバールの法則)
\(\theta\)は円周の角度なので、\(0\to 2\pi\)で積分すると
$$
H_z = \frac{1}{2}\frac{I a^2}{|a^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
となります。
\(z\)方向から生じる磁場を計算
ソレノイドは\(z\)方向に円がたくさん連なっているものと考えることができるので

上の図のようになっています。
ここで\(n’\)を単位長さあたりの巻き数で、全部で\(N_1\)回巻かれているとすれば
$$
n’ = \frac{N_1}{l}
$$
と表せるので
長さ\(dz\)あたりに\( n’dz \)本の電流があると考えられます。
よって、先ほどの磁場の式(電流の本数は1本だった)を
$$
I \times 1\to I \times n’dz
$$
に変更すると、\(P\)の受ける磁場は
$$
dH’_z = \frac{1}{2}\frac{I n’ dz a^2}{|a^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
と考えることができます。
これは普通のソレノイドの考え方と同じです。
\(y\)方向から生じる微小磁場を表す
今度は\(y\)方向、つまり、電流が流れている円の半径が大きくなる場合を考えます。
先ほどの電流が一本の場合の磁場の式
$$
H_z = \frac{1}{2}\frac{I a^2}{|a^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
において\(a \to r\)に置き換えて考えると
$$
H”_z = \frac{1}{2}\frac{I r^2}{|r^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
となります。

ここで\(n”\)を単位動径あたりの巻き数とし、全部で\(N_2\)回巻かれているとすれば
$$
n”= \frac{N_2}{(a_2-a_1)}
$$
と表せるので
長さ\(dr\)あたりに\( n”dr \)本の電流があると考えられます。
よって、先ほどの磁場の式(電流の本数は1本だった)を
$$
I \times 1\to I \times n”dr
$$
に変更すると、\(P\)の受ける磁場は
$$
dH”_z = \frac{1}{2}\frac{I n” dr r^2}{|r^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
と考えることができます。
\(z,y\)方向に積分して計算する
では、多層円筒ソレノイドに戻りましょう。
多層円筒ソレノイドは今まで考えてきた二つのソレノイドの掛け合わせに相当するので、電流が一本の場合に生じる磁場
$$
H_z = \frac{1}{2}\frac{I a^2}{|a^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}
$$
において
$$
\begin{cases}
I \to I n’n”dzdr\\
a \to r\\
\end{cases}
$$
と置き換えると
$$
\begin{eqnarray}
dH &=& \frac{Ir^2n’n”dzdr}{2|r^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}\\
&=& \frac{Ir^2}{2|r^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}\frac{N_1N_2}{l(a_2 – a_1)}drdz\\
&=& \frac{Ir^2}{2|r^2 + z^2|^{\frac{3}{2}}}\frac{N}{l(a_2 – a_1)}drdz
\end{eqnarray}
$$
となります。(\(z\)方向に\(N_1\)回、動径方向に\(N_2\)回巻いているので、合計巻き数\(N\)は\(N_1N_2=N\)と表せます。)
後はこれを積分していくだけですが、長い計算になるので省略していきます。
\(P(0,0,z_0)\)につくる磁界は
$$
\begin{eqnarray}
H &=& \int_{a_1}^{a_2}dr\int_{-z_0}^{l-z_0}dz\frac{NIr^2dz}{2l(a_2 – a_1)(r^2 + z^2)}\\
&=& \frac{NI}{2l(a_2 – a_1)}\left\{z_0 \log\frac{ a_2 + \sqrt{a_2^2 + z_0^2} }{a_1 + \sqrt{a_1^2 + z_0^2} } + (l – z_0) \log\frac{ a_2 + \sqrt{a_2^2 + z_0^2} }{a_1 + \sqrt{a_1^2 + z_0^2} } \right\}
\end{eqnarray}
$$
となります。
参考
今回はこちらの本を参考にさせていただきました。ぜひチェックしてみてください。