こんにちは
今回は「静磁場中では磁気モーメントが保存する」ことの証明をしていきたいと思います。
磁気モーメントとは
$$
\mu = IS
$$
と表されます。
円電流を考えたときに\(I\)はそこを流れている電流、\(S\)は円電流の内側の面積です。

今回は円電流ではなく静磁場中を円運動する電荷の磁気モーメントを求め、それが保存すなわち、
$$
\frac{d\mu}{dt} = 0
$$
となっていることを示します。
静磁場中における磁気モーメントの保存
この記事では
- 磁場を円筒座標で表す
- 電荷に生じる\(z\)軸方向のローレンツ力
- 磁気モーメント
- 運動エネルギー保存→磁気モーメント保存
という順番で解説していきます。
磁場を円筒座標で表す
電荷が軸対称の静磁場中で螺旋運動している状況を考えます。

マクスウェル方程式の変形
まず初めにマクスウェル方程式
$$
\nabla \cdot {\bf B} = 0
$$
の円柱座標バージョンを考えると
$$
\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}(rB_r) + \frac{1}{r}\frac{\partial B_{\theta}}{\partial \theta}+ \frac{\partial B_z}{\partial z} = 0
$$
となります。
さらに、この磁場は軸対称\(B_{\theta} = 0\)だったので先ほどの式は
$$
\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}(rB_r) + \frac{\partial B_z}{\partial z} = 0
$$
と変形できます。
積分し、\(B_r\)を\(B_z\)で表す
さらに\(r\)で積分すると
$$
\begin{eqnarray}
rB_r &=& -\int_0^r r\frac{\partial B_z}{\partial z}dr \\
&=& -\frac{r^2}{2}\frac{\partial B_z}{\partial z}
\end{eqnarray}
$$
すなわち
$$
B_r = -\frac{r}{2}\frac{\partial B_z}{\partial z}
$$
となります。
(ここで\(\frac{\partial B_z}{\partial z}\)は\(r\)に依存していないとしました。)
電荷に生じる\(z\)軸方向のローレンツ力
では次に回転している電荷に生じているローレンツ力を計算します。
電荷の速さの磁場に対して垂直な方向成分を\(v_{\perp}\)とすると\(z\)軸方向のローレンツ力\(F_z\)は
$$
\begin{eqnarray}
F_z &=& qv_{\perp}B_r\\
&=& -\frac{r}{2}qv_{\perp}\frac{\partial B_z}{\partial z}
\end{eqnarray}
$$
となります。
磁気モーメント
次に磁気モーメントを求めます。
磁気モーメントは
$$
\mu = IS
$$
と定義されます。
これを部分的に考えていきましょう。
電流
電流\(I\)は「ある面を単位時間あたりに通過する電荷量」です。
これを今回の場合(点電荷が円運動している場合)に当てはめて考えてみましょう。
点電荷の円運動軌道上のある面(ある一点)を決めます。
すると、この円運動の周期を\(T\)としたとき電荷\(q\)はこの面を\(T\)秒に一回通過します。
すなわち、ある面を単位時間\(\frac{1}{T}\)あたりに通過する電荷量は\(\frac{q}{T}\)となります。
ですから電流の定義から
$$
I = \frac{q}{T}
$$
となります。
また、周期は
$$
T = \frac{2\pi r}{v_{\perp}}
$$
となるので
$$
I = \frac{qv_{\perp}}{2\pi r}
$$
となります。
磁気モーメント
よって磁気モーメントは
$$
\begin{eqnarray}
\mu &=& IS\\
&=& \frac{qv_{\perp}}{2\pi r}\pi r^2\\
&=& \frac{qv_{\perp}r}{2}
\end{eqnarray}
$$
となります。
運動エネルギー保存→磁気モーメント保存
磁場と水平な方向の運動
$$
\begin{cases}
F_z = -\frac{qv_{\perp}r}{2}\frac{\partial B_z}{\partial z}\\
\mu = \frac{qv_{\perp}r}{2}
\end{cases}
$$
より、
$$
F_z = -\mu \frac{\partial B_z}{\partial z}
$$
と書けるので、磁場と水平な方向の運動方程式は
$$
m\frac{dv_{\parallel}}{dt} = -\mu \frac{\partial B_z}{\partial z}
$$
となります。
さらに、両辺に\(v_{\parallel} = \frac{dz}{dt}\)をかけると
$$
m\frac{dv_{\parallel}}{dt}v_{\parallel} = \frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\parallel}^2\right) = -\mu \frac{\partial B_z}{\partial z}\frac{dz}{dt} = -\mu \frac{dB_z}{dt}
$$
つまり、
$$
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\parallel}^2\right) = -\mu \frac{dB_z}{dt}
$$
が言えます。
磁場と水平方向の運動
磁気モーメント\(\mu\)を別の方法で書きます。
いま、電荷は螺旋運動しているので、遠心力とローレンツ力の釣り合いから、
$$
m\frac{v_{\perp}^2}{r} = qv_{\perp}B_z
$$
が成り立ちます。
よって\(\mu\)は
$$
\begin{eqnarray}
\mu &=& \frac{qv_{\perp}r}{2}\\
&=& \frac{mv_{\perp}^2}{2B_z}
\end{eqnarray}
$$
つまり、
$$
\frac{1}{2}mv_{\perp}^2 = \mu B_z
$$
となります。
そして両辺\(t\)で微分すると
$$
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\perp}^2\right) = \frac{d\mu}{dt}B_z + \mu\frac{dB_z}{dt}
$$
となります。
運動エネルギー保存
運動エネルギー保存より、\(\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\parallel}^2+\frac{1}{2}mv_{\perp}^2\right) =0 \)となります。
さらに磁場に水平方向、垂直方向の電荷の運動から
$$
\begin{cases}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\parallel}^2\right) = -\mu \frac{dB_z}{dt}\\
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\perp}^2\right) = \frac{d\mu}{dt}B_z + \mu\frac{dB_z}{dt}
\end{cases}
$$
だったので
$$
\begin{eqnarray}
\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv_{\parallel}^2+\frac{1}{2}mv_{\perp}^2\right) &=& -\mu \frac{dB_z}{dt} + \frac{d\mu}{dt}B_z + \mu\frac{dB_z}{dt}\\
&=& \frac{d\mu}{dt}B_z\\
&=& 0
\end{eqnarray}
$$
となります。
よって、
$$
\frac{d\mu}{dt} = 0
$$
すなわち磁気モーメントの保存が証明できました!