角運動量の合成について解説したいと思います。
特に、電子スピンの合成問題を何回かに分けて解いていきたいと思います。
今回は二つの角運動量を合成したときの合成状態を
$$
| jm \rangle
$$
とします。
(ただし合成角運動量\(\hat j\)は、二つの角運動量\(\hat j_1,\hat j_2\)を使って、\(\hat j = \hat j_1 + \hat j_2\)と表されます。)
そして直積状態と合成状態を用いて、\(j\)の取りうる値を調べていきたいと思います。
\(j\)の取りうる値
大きさ\(j_1,j_2\)で\(z\)成分の値が\(m_1,m_2\)の角運動量を合成すると\(|j_1j_2jm\rangle\)となるとします。
同時固有状態
\(|j_1j_2jm\rangle\)を略記して\(|jm\rangle\)とします。
\({\hat j ^2 _1}\)と\({\hat j_{1z}}\)は同じ固有状態を持つので、これを\(|j_1m_1\rangle\)とします。
これを同時固有状態といいます。
同様に\({\hat j ^2 _2}\)と\({\hat j_{2z}}\)の同時固有状態は \(|j_2m_2\rangle\)となります。
すると
$$
\begin{cases}
{\hat j ^2 _1}|j_1m_1\rangle = j_1(j_1+1)|j_1m_1\rangle\\
{\hat j_{1z}}|j_1m_1\rangle =m_1|j_1m_1\rangle\\
{\hat j ^2 _2}|j_2m_2\rangle = j_2(j_2+1)|j_2m_2\rangle\\
{\hat j_{2z}}|j_2m_2\rangle =m_2|j_2m_2\rangle\\
\end{cases}\tag{1}
$$
が成り立ちます。
ただし、\(m_1,m_2\)には上限と下限があり、整数と半整数を取ります。よって
$$
\begin{cases}
m_1 = -j_1,-j_1+1,\cdots,j_1-1,j_1\\
m_2 = -j_2,-j_2+1,\cdots,j_2-1,j_2
\end{cases}\tag{2}
$$
直積状態
ここで合成角運動量
$$
\begin{cases}
{\hat j} = {\hat j_1}+ {\hat j_2}\\
{\hat j_z} = {\hat j_{1z}}+ {\hat j_{z2}}
\end{cases}
$$
を構成します。
さらに\({\hat j^2_1}, {\hat j_{1z}},{\hat j^2_{2}} {\hat j_{2z}}\)の同時固有状態を
$$
| j_1m_1j_2m_2\rangle \equiv | j_1m_1\rangle \otimes |j_2m_2\rangle \tag{3}
$$
と定義します。これを直積状態と呼びます。
直積状態の基底の数
\(| j_1m_1\rangle\) の基底の数
ここで\(|j_1m_1\rangle\)の基底の数を求めます。
\(m_1\)は(2)式で見たように\( -j_1,-j_1+1,\cdots,j_1-1,j_1 \)の\(2j_1+1\)個あるので
$$
|j_1m_1\rangle = \underbrace{|j_1 -j_1 \rangle + |j_1 -j_1 +1\rangle +\cdots + |j_1 j_1-1 \rangle |j_1j_1\rangle}_{2j_1+1個}
$$
となります。
よって基底の数は\(2j_1+1\)個あります。
\(| j_2m_2\rangle\) の基底の数
同様にして
\(|j_2m_2\rangle\)の基底の数は\(2j_2+1\)個あります。
これらから、 \(| j_2m_1\rangle \otimes |j_2m_2\rangle\) の基底の数は \((2j_1+1)(2j_2+1)\)個となります。
合成状態
次に\({\hat j^2},{\hat j_z}, {\hat j^2_{1}},{\hat j^2_{2}}\)の同時固有状態
$$
| j_1j_2jm\rangle \tag{4}
$$
を定義します。これを合成状態といいます。
合成状態の基底の数
合成状態\( | j_1j_2jm\rangle \)の基底の数を求めます。
\(m\)は
$$
m = -j,-j+1,\cdots,j-1,j
$$
の\(2j+1\)個あります。
よって合成状態の基底の数は
$$
| j_1j_2jm\rangle = \underbrace{| j_1j_2j-j\rangle + | j_1j_2j-j+1\rangle +\cdots+ | j_1j_2jj-1\rangle + | j_1j_2jj\rangle}_{2j+1個}
$$
の \(2j+1\)個あります。さらに\(j\)の取る(\(j_1,j_2によって決まる\))値の数によってさらに増えます。
\(j\)について
では、\(j\)の値がどれくらいあるのか知りたいところです。
しかし、\(j\)の最大値は\(j_1+j_2\)ですが、最小値はわかりません。
( \(-j_1-j_2\) かと思うかもしれませんが、\(j\)は大きさの値なのでマイナスを取りません。)
そこで最小値を\(M\)と置き、合成状態の基底の数と直積状態の基底の数が同じことを利用して\(M\)を求めます。
\(M\)を求める
直積状態の基底の数は
$$
(2j_1+1)(2j_2+1) 個
$$
また、合成状態の基底の数はシグマを使って
$$
\sum_{j=M}^{j_1+j_2}(2j+1)=(j_1+j_2)^2-M^2+2(j_1+j_2)+1
$$
と表現できます。
これらを等式で結ぶと
$$
(2j_1+1)(2j_2+1) = (j_1+j_2)^2-M^2+2(j_1+j_2)+1
$$
よって\(M\)は
$$
M = |j_1-j_2|
$$
となります。
\(j\)の上限・下限
よって\(j\)は
$$
j = j_1+j_2,j_1+j_2-1,\cdots,|j_1-j_2|
$$
であることが分かります。
コメント
[…] 前に「【量子力学】角運動量の合成~直積状態と合成状態~」で、角運動量の合成について触れました。 […]
[…] 以前「【量子力学】角運動量の合成~直積状態と合成状態~」などで角運動量の合成などを行いましたが、これで導いた結果をフルに使っていきます。 […]