今回は「人工衛星を運行するための条件」について解説したいと思います。
この話は 「軌道の方程式」 つまるところ 「楕円運動」に関係する話なのでその分野を復習してもらえると理解が深まると思います。
ではさっそく行ってみましょう。
人工衛星を運行するための条件
地表から\(H\)の高さに人工衛星を打ち上げ、そこから速度\(v_0\)で地球を周回させることを考えます。
地球の半径を\(R\)としたとき、運行するための\(v_0\)の条件を求めます。

軌道の方程式
軌道の方程式は
$$
r = \frac{l}{1+\epsilon \cos\theta}\tag{1}
$$
ただし、\(E\)を力学的エネルギー、\(h (= mr^2\dot\theta)\)を角運動量とすると
$$
\epsilon = \sqrt{1+\frac{2Eh^2}{G^2M^2 m^3 }}\tag{2}
$$
$$
l = \frac{h^2}{GMm^2}\tag{3}
$$
となっています。(導出はまたいつか…。)
「軌道の方程式」という名前がついていますが、その実は高校でやる「楕円の方程式(の極座標表示)」そのものなので恐るるに足りません。
また、当たり前ですが惑星の運動や(人工じゃない)衛星の運動にも応用できます。
軌道要素
では、(2),(3)式の「軌道要素」をまずは求めていきたいと思います。
これらは初期条件(初速度\(v_0\)とか)で決まります。
初速度が\(v_0\)なので、角運動量\(h\)は
\begin{eqnarray}
h &=& mr^2\dot \theta\\
&=& m(H + R) v_0\tag{4}
\end{eqnarray}
また力学的エネルギー\(E\)は
$$
E = \frac{1}{2}mv_0^2 – G\frac{mM}{H+R}\tag{5}
$$
となります。
(4),(5)を(2),(3)に代入すると
\begin{eqnarray}
\epsilon &=& \sqrt{1+\frac{2Eh^2}{G^2M^2 m^3 }} \\
&=& \sqrt{1+\frac{( v_0^2(H+R) – 2GM )(H+R)v_0^2 }{G^2M^2}}
\end{eqnarray}
ここで、地表の重力加速度\(g\)を使うと
$$
mg = \frac{GmM}{R^2}
$$
より、
$$
g = \frac{GM}{R^2}
$$
なので、これを使って先ほどの式を変形すると
$$
\epsilon = \sqrt{1+\frac{( v_0^2(H+R) – 2gR^2 )(H+R)v_0^2 }{g^2R^4}} \tag{6}
$$
となります。
また、
\begin{eqnarray}
l &=& \frac{h^2}{GMm^2} \\
&=& \frac{ (H + R)^2 v_0 ^2}{GM} \\
&=& \frac{ (H + R)^2 v_0 ^2}{gR^2} \tag{7}
\end{eqnarray}
となります。
運行の条件
長くなりましたが、運行の条件を求めていきたいと思います。
大きく分けて二つあり、それは
- 楕円軌道を描く
- 地球に落下しない
です。
それぞれ見ていきましょう。
楕円軌道を描く
楕円軌道を描くにはどうしたらよいでしょうか。
それはずばり、\(\epsilon < 1\)を満たすことです。
(6)式から、
$$
(\epsilon =)\sqrt{1+\underbrace{\frac{( v_0^2(H+R) – 2gR^2 )(H+R)v_0^2 }{g^2R^4}}_{<0}} < 1
$$
となればよいので、ルートの中の第二項が負になっていればよいですね。
よって
$$
v_0^2 < \frac{2gR^2}{H+R} \tag{8}
$$
となり、これが一つ目の条件になります。
地球に落下しない
二つ目の条件は「地球に落下しない」です。
当たり前ですね。
人工衛星の楕円軌道の焦点には地球の中心があるので、楕円軌道の近日点が地球の半径より大きい必要があります。
楕円軌道の近日点\(r_{min}\)は
$$
r_{min} = \frac{l}{1+\epsilon}
$$
と表されるので
条件は
$$
\frac{l}{1+\epsilon} > R
$$
となります。
これに(6)(7)式を代入して計算すると
$$
v_0^2 > \frac{2gR^2}{(2+\frac{H}{R})(R+H)}\tag{9}
$$
となります。これが二つ目の条件です。
まとめ
(8),(9)式から、人工衛星が運行するうえで必要な初速度\(v_0\)の条件は
$$
\frac{2gR^2}{(2+\frac{H}{R})(R+H)} < v_0^2 < \frac{2gR^2}{R+H}
$$
となります。
実際に打ちあがっている人工衛星が(現実はもっと複雑だと思いますが)このような原理で地球を周回していると考えるとワクワクしますね!