こんにちは
今回は「算術平均・幾何平均・調和平均の違い」について解説したいと思います。
算術平均・幾何平均・調和平均
「平均」と一口に言ってもさまざまな種類があります。今回はその中でも特に有名な「算術平均・幾何平均・調和平均」の違いや使いどころを説明していきたいと思います。
それではさっそく行ってみましょう。
算術平均
算術平均は
$$
{\bar x}=\frac{x_1+x_2+\cdots+x_n}{n}
$$
と定義されています。小学校からおなじみの平均ですね。
例えばりんご3個の重さが290g,280g,300gのときの算術平均\({\bar x}\)は
$$
{\bar x}=\frac{290+280+300}{3}=290
$$
となり、これらのりんごの平均は290gとなります。りんごの重さの中間が分かります。
幾何平均
幾何平均は
$$
x_G = \sqrt[n]{x_1\cdot x_2 \cdot \cdots \cdot x_n}
$$
となります。
幾何平均は変化率を表す指標で「物価の上昇率」「株価の変化率」などによく使われます。まずは例を見てみましょう。
ある会社の株価が1998年に1997年の90%上昇したとします。さらに翌年1999年には10%、さらに翌年2000年には20%,2001年には30%上昇したとします。しかし、不祥事で2002年には-90%の下降をしてしまったとします。このとき、株価の平均変化率\(x_G\)は
$$
x_G = \sqrt[5]{1.9\times 1.1 \times 1.2 \times 1.3 \times 0.1}\sim 0.8
$$
となるので、株価の平均変化率は約0.8%(毎年20%の下落)となります。
算術平均ではダメな理由
なぜ
$$
{\bar x}= \frac{1.9+1.1+1.2+1.3+0.1}{5}=1.12
$$
で12%の上昇としてはいけないのでしょうか?
図で見てみましょう。まずは算術平均のやっていることを図にしてみると以下のようになります。

変化率の算術平均なので、毎年同じ変化率で変化していることが分かります。
単純に変化率を「ならした」だけなので最終年(2002年)の株価は元データのものとはかけ離れていることが分かると思います。(計算してみても違うことが分かると思います。)
次に幾何平均を図にしてみます。すると以下のようになります。

この図を見ると毎年-20%の下落が起きています。(先ほどの幾何平均の計算結果)
さらに最終年(2002年)の株価は同じになります。これは幾何平均の定義からもわかります。
すなわち、
\begin{eqnarray}
x_G &=& \sqrt[n]{x_1\cdot x_2\cdot x_3\cdot x_4\cdot x_5}\\
&=& \sqrt[n]{\frac{(1998)}{(1997)}\frac{(1999)}{(1998)}\frac{(2000)}{(1999)}\frac{(2001)}{(2000)}\frac{(2002)}{(2001)}}\\
&=& \sqrt[n]{\frac{(2002)}{(1997)}}
\end{eqnarray}
(2002)は2002年の株価を表します。
上の通り、最後の年の株価(2002)を最初の年の株価(1997)で割ってn乗根をかけた数字になることが分かります。なので、2002年の株価と1997年の株価のみに依存することになります。
幾何平均は最終年と最初の年の値のみに依存することになり、その期間の平均変化率を表現することができるのです。
算術平均では上で見たように変化率を一定にしただけなので、最終年の株価が実際のものと食い違ってしまうのです。
また、1997年の株価を1として両辺にかけると幾何平均で2002年の株価を求めると
$$
1\times x_G^5 = 1\times 1.9 \times 1.1 \times 1.2 \times 1.3 \times 0.1
$$
で両辺が2002年の株価を示していることが分かりますが、算術平均では
$$
1\times {\bar x} = \frac{1\times 1.9+1\times 1.1+1\times 1.2+1\times 1.3+1\times 0.1}{5}(?)
$$
となり、右辺の各項が初年度の株価にそれぞれの上昇率をかけてしまっているので、正しい値を出すことができていません。(例えば2001年の実際の株価は\(1\times 1.9\times 1.1\times 1.2\times 1.3\)です。\(1\times 1.3\)ではありません。)
なので、データが「前年と翌年」の比になっている場合(株価上昇率・物価の上昇率・複利など)は、幾何平均を用いたほうがよさそうです。幾何平均を用いれば初年度から最終年に至るまでの平均的な変化率が分かります。
つまり、この会社の株価の代表値としてみたとき、幾何平均を使い「1997年から2002年まで-20%の平均成長率」といった方が適切になります。
調和平均
調和平均は
$$
\frac{1}{x_H} = \frac{1}{n}\left(\frac{1}{x_1}+\frac{1}{x_2}+\cdots+\frac{1}{x_n}\right)
$$
と定義されます。
調和平均はよく「往復の速度の平均」を求める際に使われます。例を見てみましょう。
行きに20km/h、帰りに80km/hで距離10kmの道を往復したとしましょう。
このときの平均は
$$
v_H = \frac{1}{\frac{1}{2}\left(\frac{1}{20}+\frac{1}{80}\right)}=32
$$
となるので、平均速度は32km/hとなります。(意外と遅いですね)
算術平均ではダメな理由
なぜこのような計算をしなくてはいけないのでしょうか?
$$
{\bar x}=\frac{20+80}{2}=50 km/h
$$
ではいけないのでしょうか?
これは調和平均において20km/hで走っている時間が長いため、その分そちらの方が重要視されているからと考えられます。
当たり前ですが、同じ距離をゆっくり走った方が時間がかかります。
なので、20km/hで走っていた時間の方が割合として多くなり、その分を調和平均では考慮しているというわけです。
算術平均ではこの考えがありません。
20km/hと80km/hで同じ距離を走った場合を考え、それらの平均を求めてしまっているのです。
参考
こちらの本を参考にしています。